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朝早く歩いていると、奥さん達と出会い、「おはようございます」と、軽くあいさつをかわす。
不思議に、ここの奥さん達は、小柄である。
小づくりと言うべきだが、容姿はすこぶる良い。
冗談だが、建設省だからこそ、頭が良くて小柄な美人を揃えたのか、と思いたくなる。
この道を二十年も歩いていると、この街の気風がなんとなくわかってくる。
奥さん達は、意外と地味な人が多い。
服装もそうだが、生活も堅実に考えるのだろうか。
外部から中をのぞいても、目新しいものや珍しいものを持っている人はいない。
勿論、失礼にならないように、そっとのぞくわけだが。
この家々の車庫には、大きな自動車は一台もない。
大きいとは、二千CCクラスの小型車のことだが。
どこにでも気取り屋はいるものである。
だが、官舎の人々は、同じ職場だから、監視がうるさいのだろうか。
僕に言わせれば、何の車に乗ろうが、役所の知ったことではないはずだが、当人達には、なかなか難しいのであろう。
いわゆる、隣人しごきの網がかけられて、身分不相応の車に乗れないのであろう。
そう言えば、大きい会社でも、何らかの序列があるという。
が行くわけだが、犬とすれ違ったら、大変である。
双方ワンワンどなって、取っ組み合いをする。
大騒ぎである。
僕の愛犬は柴犬なので、ケンカが早い。
相手が用意する前にガブリとやる。
大きい犬に向かっても、同じである。
だから、強い犬も、僕のシルバー君を見ると、スタコラ逃げてというわけで、犬と犬が出会うと、僕の方がビクビクする。
ところが、官舎の人は先に横道に入り、こちらが通りすぎるのを待っていてくれる。
誰もが、そうである。
僕は犬を引っ張って、小走りに走り、相手の近くを素早く通りすぎる。
小さな家には住んでいるが、礼儀正しい人達なので、僕の方も気を使うことにしている。
僕は決して官舎の前で、犬の小便はさせない。
たとえ犬がフンをしても、きちんと始末している。
官舎の人達を見ていると、僕は台北市の人達を思い出す。
心が地味で礼儀正しく、質素な生活に甘んじる点は、日本人と同じである。
むこうでは、早朝に起きて音楽に合わせて太極拳をやったり、公園で遊んだり、露店で朝食をとったりした。
よくしゃべるが、おだやかな人が多い。
道路は狭く、四メートル幅だが、車は余り通らない。
時々電信柱に広告が貼ってある。
という風な中古住宅の広告である。
ここが官舎であることを知らない業者が、貼って歩いたのだろう。
でも、今や五DKの時代である。
土地は、三十坪はおろか、四十坪を買う人が多くなっている。
ところが、ここの住民ときたら、二DKで頑張っている。
公務員だから、と言えばそれまでだが、なんとも哀れな話である。
「きっと狭いのに、苦労しているだろうなあ。
公務員の人達は、質素な生活をして、税金の無駄使いをいましめている。
見上げた心がけだ。
偉いなあ」と、いつも感心してしまうのである。
そんな彼等も、どういう訳か、クリーニング店はよく利用する。
それも、わりと気前よくクリーニングする。
身だしなみに気を使うサラリーマンだから、当然と言えば当然かも知れないが。
去年までの二十年間、僕の妻は、クリーニングの取次店をしていた。
だから、官舎の人達が来てくれるのを見て、きれい好きな人達だなあ、と思ったのである。
僕などはケチな方で、自分のスーツすら、春と秋にしか出さないが、彼等は何着もあるスーツを、何回も出す。
僕は、Yシャシは手で洗うが、彼等は取次店に出してくる。
ワイシャツやスーツを何回も出せば、かなりの出費になるだろう。
金持ちならいざ知らず、毎月決まったサラリーをもらい、その中でやりくりするのだから、大きな負担だと思う。
僕流のケチな考え方をすれば、クリーニング代は半分に減らして、ういたお金でビールでも飲めば、ずっと楽しくなると思うのだが。
ただし、こんな事は秘密である。
なぜなら、クリーニング代が減ったら、僕の妻の収入が減り、僕も影響をこうむるからである。
ともかく、彼等は、いつも服をきれいにする。
周りに同僚がいる手前、恥ずかしい思いをしたくないのだろうし、同僚に負けたくない気持ちも、あるのだろう。
この人達のきれい好きのお陰で、妻の店は繁盛し、もうけることもできた。
「家が狭いから、整理する都合があるのだわ。
それにしても、服は大事にするのね」と、妻もベタほめである。
それにしても、小さな家にひっそりと暮らし、不便さに黙々と堪えている姿は、賞賛に値する。
できるのは、公務員という誇りがあるからであろう。
日本人は、体格が良くなったのに比例し(?)日本人らしくなくなったが、官舎に住む人々の心は、まだ日本人の良さを残しているようである。
日本の心は明治の心であり、明治の心は日本にはなくなって台湾にある、と言われるが、どうしてどうして、このように片隅に残っている例もある。
衣食住が満たされれば、人間は進歩する必要はない。
金持ちになってもやる事は同じで、ヨット、車、テニス、農園のたぐいである。
僕はそう考えながら、その静かな道を歩いていると、心が落ち着いてくる。
マンションやアパートを借りる人には、色々の人がいる。
老若男女を問わず、千差万別である。
無口な人が多いが、中にはおしゃべりもいる。
用心深い人が多いが、中には、室を見る前から簡単に借りる、というスレッカラシもいる。
金のある人が多いが、中にはスカンピンもいる。
その上に、最近は肌色の違う日本人が加わってきた。
もっとすごいのは、顔付きは私達日本人と同じだが、実は外国人です、というような混迷を地でいくような、人種も登場してきた。
色々なケースを紹介するとわかりにくくなるので、ここでは、最も標準的なお客様をご紹介しよう。
普通の人は、どんなふうにして室を探すのか。
それに対して、僕達不動産業者は、どんな考えで応対しているのか。
これを知ってもらうことが、大切である。
そうすれば、この本の大部分を彩る特異さが、テーマの豊かさが、おわかりいただけることと思う。
二人は、ガラスに貼ってある資料を見ながら、一つ一つ吟味している。
良くて、安い物件はないか。
それと、二階の角がねらい目なのである。
「図面は中にあり、と書いてあるわ。
ね、どうする?中に入って、見てみようか」「オーケー。
明るくて、親切そうな店だよ。
販売員がテーブルに構えてないし、押し売りはなさそうだ」「やるみたいね。
空いてから、入居可能日は、十日後になっているもの。
十日とれば、修理すると考えていいわ」若いカップルが、店頭の広告ビラを見ながら、物件を探しに来た。
「これ、安いわね。
二DKで七万円よ。
今住んでいる所と比べたら、七千円は安いわ」「駅からも近いし、台所がクッションフロアというのも、いいね」「築七年か。
もう少し新しいといいのに」「車庫もあるぜ。
礼金ゼロもいいね。
どこでも、礼金は減っているもの。
リフォームは、どうか二人は、入口でちょっと店内をのぞきこんだが、女性が先に立ち、中に入ってきた。
事務所では、女性三人と中年の男性一人が、机に向き合って仕事をしていた。
二人に気づくと、若い女性がすぐ立ち上がって、「いらっしゃいませ」と、元気よく笑顔であいさつした。
「あのー、アパートを探しているのですけど」「はい、二DKですか?二Kですか?」「二DKか二LDKです」「はい、わかりました。
」
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